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2013. 09. 25  
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自分の心を奥深く見つめて祈りにも似た想念を探るとき、詩のフレーズが少しずつ浮かんでくる。

言葉を丁寧に選んでコーディネイトしたとき、納得のいくデコレーションが出来上がる。


そこにメスを入れる他人の感想――。

盛り付けた寿司は飾り物になるが、他人の感想は寿司を見てすぐに食べてしまう人の駄弁。

しかも甘さと酸っぱさを程よい加減で調味し色合いよく盛り付けた寿司を、容赦なくばらばらにして、調理人の寿司の味とはかけ離れた寿司に分解してしまう。


この黄色は卵、赤いのは人参、青くて丸いのはグリンピース、出しはこれこれしかじか……と、ここまで来ると寿司は元の寿司でなくなり、作者の作品はぐちゃぐちゃになっている。

寿司が食べたければ、黙って食べなさい。

いちいちこれは何、これは何といわず食べなさい。

さすれば美しいままで食べれます。

ゆめゆめ寿司に醤油やソースをかけないでください。

そのまま一口ずつ味わえば、あなたにも寿司を作った人の味がわかるかもしれません。








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2013. 09. 22  
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ずいぶん昔のおばけに遭遇したもんだ
私の記憶の特等席に
でんと居座り続けていたおばけ

過去のやるせない私の胸を
えぐるように得々と語る奴

やっと平穏に暮らす自由を
獲得したというのに
今更ま昼間のおばけとなって
出てくるとは何事だ

二度と還らぬおばけとなった後
何度わたしの夢枕に
立ったことだろう

懺悔してもらったところで
もう半世紀も昔のことだろうに

早く私の前から消えろというには
おばけも年を取り過ぎて
そういう仕打ちで追っ払うのは
憐れなおばけになっている
きみは…








2013. 09. 19  
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**
私には時間がないの
ついこの間まで夢ばかり見ていたから
永遠に続くと思っていた未来

僕もおなじだよ

いのち永らえても
生きている証がなくなれば
死も同然よね

そうだね
そのとおり

……*有象無象の人間より


**
生きてる証って
あなたにとって
なに?

そうだな
きみと会えることかな

でも一年に一度だけの
逢瀬
雨が降れば会えないもの

わたしたち
このままでいいのかしら

いいんだよ
宇宙が消滅しないかぎり
僕たちの命は永遠だよ

そうね
あなたの瞬きは
永遠

そして
私も……

人間たちは
可哀想だね
彼らの命には
限りがあるんだもの

私たちは
幸せね
星の子でよかった


……*星の子より





2013. 09. 06  
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http://www.flickr.com/photos/cubagallery/



群青9月の課題
漢字一文字【 音】をテーマに書いた作品


五感の中で一番心打たれるのはかつての経験で、耳のような気がする。

何故かというと、
私は井の中の蛙で旅行などに出かけて素晴らしい景色をみたことがないからだ。

その代わり、耳から入るものは家の中にいても感じられる。

学生時代のことであるが……、

私は母の知り合いの町医者である眼科医に頼み込んで一間借りていた。

そこは静かな町なかでも一番の繁華な通りに面していて、当時睡眠に過敏で引っ越しを重ねていた私はどういうわけか、三年生から卒業までの二年間ずっとその家に住み続けることができた。

次第に家の前の大通りを走る車の音も気にならず安眠できた。


**
当時私は大学で軽音楽部と宗教部に所属していた。
どちらも物珍しさから選んだ部で大してのりのりではなかった。

軽音楽部はピアノが弾けるということで入学早々誘われて入部したものの、ジャズは楽譜がないのでアドリブで連中の演奏に合わせることはできず早々に退部したのたが、たった一つ良かったと思えるのは良き友を得たことだった。
フラダンスを踊る女性グループの一人である。

二年生が終わり三年になって引っ越しをした女医さんの家の二階にはまだ一間空いている部屋があった。

引っ越し先を探していた軽音楽部のその友が私のいるところに来たいと望んでいたので、私は大家さんに頼んで彼女を入居させてもらうことになった。


軽音楽部のその友は遠慮がちに毎夜ギターの弾き語りをしていた。

その内私もコードのことを教えてもらい、歌の弾き語りができるほどに全てのコードを覚えた。

毎日夕方になると、二階に併設された白いベランダで私たちはギターを弾いて歌った。

その友とは、彼女が半年遅れの卒業になったので、見送られて私は卒業し実家に帰ることになった。


**
私はそれまで雨の日が嫌いだった。
鬱陶しくてなんとも気分が沈んだものだ。

彼女は雨が降る日、部屋の中で一緒にギターを弾き歌っていたとき言った。

「あのパラパラっという音好きなのよね……」

私はじっと耳を澄まして雨の音を聴いた。

雨の音をしみじみ聞いたのは初めてのような気がした。

**
彼女は夜更かしをするので、三時間目の授業に合わせて起きていたようだ。

入学した当初はまだおかっぱ頭で素顔の彼女は子供っぽかったが、私の借りた家に入居した時にはすっかり成熟した美しい女性へと変貌していた。


**
間借りしている二階の狭い廊下には、水道の蛇口がある洗い場がついていて、私達はそこで自炊していた。

自分が何を料理していたのかよく覚えていないのだけれど、彼女が乏しい仕送りでまかなっている*鶏肉のもつのごった煮を作っていたのを思い出す。

身体が弱かった私は、予習復習する以外の時間帯にはよく布団の中に入っていた。

彼女が料理を始めると、フライパンに何かを入れてはじける音を私は快い気分で聞いていた。

そして水道から水が流れ落ちる時の、あのしゃらしゃらっと音立てるのも……。


**
実家に帰ってから自分で料理するとき、水道の水が流れる音をきくといいなあと思うし、雨がパラパラっと屋根や庭木に落ちる音に耳を澄まして聞いている。

あれからもう何十年経っただろうか。

あの友とは文通をすることも年賀状を出し合うこともしていないので、彼女の音信は分からない。

遅く入学した私が年齢のことを明らかにしておらず、「言っていないことあるのよ」と言ったら、わたしにも秘密があるの……、と彼女は言った。

若き日の友の、他人に言えないことって何だったのだろう。

時々、もう知りえない遠い記憶の中の疑問を思い出すことがある。