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2013. 03. 25  
群青3月の課題
漢字一文字【 準】をテーマに書いた作品


もう遠い日になってしまった日のことを思い出す……。

母が馴染みの個人病院に入院していて初めて元気そうに昼食をとっていたとき、突然痙攣し始めて、先生が血相を変えて総合病院に連絡し緊急搬送されたあの日。

その日から痙攣止めの注射の為に、母はほとんど眠っていた。
ときどき目を覚まして、もうろうとした状態でかわいい言葉を発していた。

いいことばっかり言って、本当に可愛い病人して…90歳の命を全うした。

最後は家で桜の花を見せたいと、夏から極寒に逝くまでずっと私は思っていた。

緊急入院した夏が過ぎ、秋が来て、真夜中に病院から自宅へ歩いて帰っていたとき、空を見上げるときれいな月が私を照らしていて、まるで会話してるような気分だった。

その年のお正月が来て、せめてもと私はベッドに餅花を飾った。
看護士さんも共に喜んでくれた。

小さな餅花の玉を指して、これ何色?と言ったら、母は全部英語で答えた。何でだったんだろう。


病人になると英語が浮かぶものなのか、現在入院中の家人が看護士さんに、この人だあれ?と訊ねられて、*ワイフ……と答えていた。


**
いまわがやの庭の桜はほぼ五分咲き。

そして四月半ばに、わがやの主は退院を通達されていて、私は病院側からの勧めで食べ物を注入したり、今度栄養士の指導も受けることになっている。

着々と進められる退院の準備……。

自分ひとりの肩にずしんとかかる重たいものを感じてはいるものの、在宅で最後を迎えたいという人が多いとか聞いた。
もしもこのまま病院で帰らぬ人となったら、あまりにも悲しい。

救急車で運ばれたときのままにしている家人の部屋と、リビングのソファベッド。
不自由な身体になっていてもやっぱり家に帰って来てほしい。
自分の見えない所で、見えない時間を過ごしたまま、いなくなってしまうのはあまりにもさびしい。


ふたつの心が揺れ動く毎日だが、そういうことを考えていたらやっぱり退院の日はお祝いをすべきだろう。
食べ物が要らない人を迎えるただ一つのお祝いは、《優しい心》しかない。

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