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2013. 02. 23  
群青2月の課題
漢字一文字【 愛】をテーマに書いた作品




死にかけている人に向かって言ってはならないことをまた口走った。
言った瞬間は腹が立っているので病院のエレベーターにむっとした顔付で乗っているかもしれない。

今の病院に転院する前に入院していた市立総合病院は救急病院でもあるので人の出入りが多く、医師や看護士、病人の家族などの往来が絶え間ない中にいる私の顔の表情など目立つことはなく二か月が過ぎていた。

転院した病院に車でやってきて、静かな院内の五階までエレベーターで上がって病室へくると、カーテンが引かれた中に病人がひっそりといる。

食事の時間に私が遅れて行くと、ベッドが持ち上げられて、配膳された食事を前に病人はぼぅっとして何もせずにいるか目をつぶっている。
完全看護なのに誰も手助けする看護士は来ておらず、自分が来なければどうなるのだろうと思いながらベッドの傍の椅子に座る。


今日もまた何も手をつけていない。
どうして食べないんだろう。
拒食症になっているのだろうか。

手足は動くし、内臓も悪くないし、脳梗塞も消えている。
なのに食事には手をつけようとしない。

心の中では何とか元気になってほしいという気持がいっぱいで、食べ物は拒否している病人に向かって、水を飲む?と声を掛ける。
今日の気分はどう?というにはあまりにも衰弱しているので気分が良いはずもなく無駄な問いかけはよそうと口をつぐむ。



ついこの間まで、ちょっとしたことでも腹を立てていた自分だが、こんな状態になると一日でも生命維持をしなければと必死の気持になる。

今日はあまりにも弱っているように見えたにもかかわらず、何もせずに放っておかれているみたいだったので、ナースセンターに行って様子を伝えた。
担当の先生が出張なので点滴はできません、と看護士はいとも簡単に言う。
このまま死んだらどうするのですかというと、別の先生に伝えておきますという。

なかなか先生が来ないので又催促に行くと、先生は診察中なのでいつになるかわかりませんという。

まだ元気な時は少々のことがあっても心配したことはなかったのに、土壇場になって慌てている自分がいる。


病院から帰ってくると一人でテレビを見ながらご飯を食べる。
気を紛らわそうとお笑いとかサスペンスとかを選んで観る。

ふっと思い出すのは、現役ばりばりだった頃の頼りがいのある姿ではなく、13年前に倒れてからすっかり変わってしまった憐れな姿ばかり……。
その姿を思い出すと可哀そうで涙が流れる。

病気してからは機嫌が悪いときが多く、私は怯えたり鬱陶しく思ったりしてずっと過ごしてきた。

でももう一度病院から帰って、あのひょろひょろ歩く姿でもいいから見たいと思う。
私の運転する車の助手席に乗って良い気持ちになって喜んでいる姿をもう一度見たい。

遠くまでドライブして物産店に寄ると、食堂で食事して買い物するのがうれしそうだった。
身体が弱ってからも、私が作る食事をおいしそうに食べていた。

どうして急に拒食症みたいになったのだろう。
お願いだからもういちど家に帰って私の作るご飯を食べて欲しい。
歩けなくて車椅子になっても、寝たきりになっても、もう一度生きて帰って欲しい。








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